平成31年2月12日労働安全衛生規則改正!気になるその内容は?

たまたま官報を見ていたら平成31年2月12日に労働安全衛生規則(以下「安衛則」)が改正されていました。よく読むと、林業関連の項目が結構変わったようです。列挙すると次の通り。

  1. 伐木作業における古い手法に関する規定の削除
  2. 伐木作業における安全対策の強化
  3. 材木運搬作業等の作業計画に「労働災害が発生した時の応急の措置及び傷病者の運搬の方法」の記載が義務化

本稿では主に1.と2.について取り上げたいと思います。

伐木作業における古い手法に関する規定の削除

そもそも、安衛則は大きく「第1編 通則」「第2編 安全基準」「第3編 衛生基準」「第4編 特別規制」の4つの編によって構成されており、このうち「第2編 安全基準」の第8章がまるまる「伐木作業における危険の防止」に当てられております。今までの安衛則ではさらに「第1節 伐木、造材等(第477条-第484条)」「第2編 木馬運材及び雪そり運材(第485条-第517条)」の2節に細分化されていたのですが、今回その細分化が廃止、というか木馬運材及び雪そり運材に関する条文そのものが消滅しました。安衛則が作られた頃は原木や材木を運搬するための機械がまだ無かったか一般的でなかったのでしょう。だからこういう昔ながらの運搬方法に関する規則が作られ現在まで残っていたんですね。

っていう話だけだったら全然面白くないんですが、この「第2編 木馬運材及び雪そり運材」っていう項目が、安衛則全体の中でもやたら異彩を放っていた、というよりも中々味わい深かっただけに、今回の改正は結構衝撃的なのです(少なくとも自分にとって)。

まず何と言っても、第2編の最初の条文から中々時代を感じさせてくれます。

第485条 事業者は、木馬による運材の作業を行う場合における木馬道(以下「木馬道」という。)については、次に定めるところによらなければならない。(以下略)

安全衛生の勉強をしているときこの条文を見て「えっ木材運ぶのに木馬使ってたんすか、てか木馬って何すか、トロイの木馬みたいなやつっすか」って面食らったのを覚えています。ここでいう「木馬」とは、「親骨に横木を取り付け、運材のために使用するそり状の運材用具」を指します(昭36.3.13基発第183号)。今となっては林道の建設もしっかり行われるようになり、ダンプによる運材もしやすくなったので、こんなものをわざわざ使う会社も無くなっているはずです。ですから、今回の改正で木馬に関する条文(第485条-第490条)が削除されてもまあやむなしといったところですかね。同様にして、雪そり等に関する条文(第491条-第497条)も削除されました。

それと、もう一つ味わい深いものが「伐木作業における危険の防止」からいなくなっていました。それが「修羅」です。

皆さま何すかそれってお思いかと思われますが、実は自分でもさっきまでよく分かっていませんでした。今Wikipediaで調べたらこんな感じのことが書いてありました。

修羅(しゅら)は、重い石材などを運搬するために用いられた木製の大型橇(注:そり)である。

概要

重機の存在しなかった時代に重いものを運ぶ重要な手段であった。コロなどの上に乗せることで、摩擦抵抗を減らすことができる。古墳時代には古墳の造営にも使用されていたと考えられているが、巨石運搬具を「修羅」と呼ぶようになったのは近世以降であり、古墳時代にこの名称は存在しない[1]。 (中略)近世の築城の様子を描いた「駿府城築城図屏風」などには、修羅で巨石を運搬する様子が描かれている。

修羅(ソリ) – Wikipedia

だそうです。知らねえよ!!!

とまあともかくこういう大昔からある道具が、時代の流れに即した結果安衛則から姿を消すことになったわけです。平成の終わりも相まって中々趣深いものがありますね。ちなみに修羅という名前の由来は「大石をタイシャクと読み、それを帝釈天に引っ掛け、帝釈天を動かせるものは阿修羅すなわち修羅であると語呂合わせからきたものとされている」のだそうです。これも中々いいネーミングでございます。

また、胸高直径1成人の胸の高さの位置における立木の直径70 cm以上(原則)の立木の伐木等に際しての特別教育2特定の危険または有害な作業を労働者に行わせる際、事業主が行わなければならない安全衛生教育のこと。規定が無くなりました(第36条第8号)。これは別に特別教育なしで木を切ってもよくなりましたっていう話ではなくて、斧などによる昔ながらの方法による伐木が現在行われていないことを受けての削除なのだと思われます(事実、チェーンソーを用いた伐木、かかり木の処理及び造材作業に関しては特別教育の規定が以前からあり、これは改正を伴っても、第36条第8号の2から同条第8号へ移行した形で残されています。)。

伐木作業における安全対策の強化

今までは、伐木作業における危険の防止について規定した第477条の第3項は「伐倒しようとする立木の胸高直径が40 cm以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受け口3立木を伐倒する際予め木を倒す方向に入れておく切れ目。を作ること。」としか書いていなかったところが、

「伐倒しようとする立木の胸高直径が20 cm以上であるときは、伐根直径の4分の1以上の深さの受け口を作り、かつ、適当な深さの追い口4受け口を作った後、実際に伐倒する際に切り口の反対側から入れる切れ目。を作ること。この場合において、技術的に困難である場合を除き、受け口と追い口の間には、適当な幅の切り残しを確保すること。」

と改正され、かなりしっかりとした内容になりました(胸高直径も20 cmになっています)。また、かかり木5伐倒した際他の立木に引っかかってしまった木のこと。の処理に関する規定(第478条)、伐木時の伐木者以外の立入禁止及びかかり木処理時の処理者以外の立入禁止(第481条第2項、第3項)、下肢の切創防止用保護衣の装着義務(第485条)が加えられました。

現在でこそ、日本は木材の多くを輸入に頼っており、林業は衰退の一途を辿っているとはいえ、今でも多くの地域で林業が営まれています。また林業は、他業種に比べて労働災害の度数率(100万延労働時間当たりの労働災害による死傷者数)が際立って大きく、平成28年度の全産業の度数率が2.91なのに対し、林業は26.17とおよそ10倍の値になっています。さらに、林業における死亡災害の多くは、伐木作業中及びチェーンソー作業中に起こっています(ソースはこちら6厚労省のデータだけど多分信頼できるからみんな信じて!お願い!)。ですから、伐木作業における安全対策強化は言うまでもない急務であったわけで、今回の安衛則改正によって、林災防などによる自主的な対策にのみ頼っていたところに、労働基準監督機関による指導の明確な基準(=安衛則の新しい条文)が設けられ、結果、安全対策の実効性が高まることが期待されます。

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