修論要旨「古典ギリシャ語の部分的読みを持つ形容詞について」

大学に提出した修論要旨をとりあえずそのまま掲載します。なお、今読んでみて意味不明なところ等には注を付けましたし、誤字も修正してあります。にしても読みにくいですが時間が無かったのでご愛敬ということで。


本論文は、古典ギリシャ語の形容詞の中でも、特に「部分的読み」を持つものに関する論文である。伝統的に、古典ギリシャ語において名詞修飾をする形容詞は、修飾する名詞の意味を限定して名詞句の指示対象を決定する限定的用法と、名詞句の指示対象の一時的な様態を記述する述語的用法の二種類の用法に分類されてきた。この二つは、冠詞を含む名詞句の場合それぞれに特有の構文によって明示することができる。これをそれぞれ限定的位置、述語的位置と呼ぶ。ここ1本来は「本稿」と書くのが望ましいところ。で問題となる部分的読みを持つ形容詞は、この述語的位置に置かれると、名詞の一時的状態を表すのではなく、名詞が表す指示対象の一部を表す。これは、限定的位置で使われた時の意味と比較するとよりその特異性がはっきりする。

(1) 限定的位置

2本当は長音記号も付くのだがWordpressで出力する方法が分からなかった… mésē pólis
the.f.sg.nom middle.f.sg.nom polis.f.sg.nom
「中央にあるポリス」

(2) 述語的位置→部分的読み

mésē pólis
middle.f.sg.nom the.f.sg.nom polis.f.sg.nom
「ポリスの中央」(例はいずれも作例)

このような読みを与える形容詞は、同じ西洋古典語であるラテン語にもしばしば見られ、その形容詞の種類も古典ギリシャ語より豊富である。そのため、部分的読みを持つ形容詞の研究はもっぱらラテン語においてのみ為されており、古典ギリシャ語におけるこのような形容詞についての言及は、文法書や名詞句一般に関する研究においてごく簡単に扱われているに過ぎず、また、多くの用例に基づいた、部分的読みを持つ形容詞の使用状況の検討が十分に為されていないという問題があった。それに加え、通常の形容詞と部分的読みを持つ形容詞の違い、具体的に述べればそれらの語彙的意味の違いも、これまでの研究では詳しく記述されてこなかった。以上の問題点を踏まえ、まず本研究の土台として、古典ギリシャ語の部分的読みを持つ形容詞の用例を用意することが必要となった。これが本論文の第一の目的である。そして、部分的読みを持つ形容詞を通常の形容詞と区別するような、特有の語彙的意味を捉え、これを元に述語的位置において部分的読みが生じる機構を記述することを試みるのが、第二の目的である。

本論として、まず、部分的読みを持つ形容詞の使用状況を、ヘロドトスの『歴史』や古典期の散文テキストを元に検討した。この結果、限定的位置にある場合、その意味は文脈から強い影響を受けることが分かった。対して述語的位置にある場合、すなわち部分的読みを持つ場合は、文脈によって意味に影響が生じることはなく、もっぱら名詞句の指示対象の様態、つまり物体が持つ空間的広がりや、ある一定の時間幅のみに依存して、その部分を指すことが分かった。

また、部分的読みを持つ形容詞の語彙的意味を検討すると、これらには共通して、「その外延の決定のためには対比の対象を要素に持つ集合を義務的に項として取る」という特徴があることが分かった。

これを踏まえて、部分的読みが生じる機構を、Langecker の認知文法における主要な概念であるベースとプロファイルを用いて説明した。部分的読みにおいては、当該項3前段落にて言及された、義務的に取られるところの項のこと。は被修飾名詞を取り、かつそれはプロファイル決定子(意味的主要部) である形容詞のベースを精緻化し、結果として名詞句が名詞で表されるものの一部分をプロファイルする、という分析がなされることを主張した。また、形容詞が名詞句全体のプロファイルを決定する機能を持つのは、それが述語的位置にあるからであり、このことはab urbe condita 構文と呼ばれる、「分詞+名詞」の言語形式がモノでなく事態を表す構文において、分詞が述語的位置にあることと並行的に解釈できることも述べた。

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