数年前、原宿のデザフェスでやってた合同展に、スケッチブックを1冊だけバサッと置いて展示したことがある。タイトルは確か「断片的なものたち」。岸政彦著『断片的なものの社会学』からほぼそのまんま取ってある。
日常の何気ない一瞬や芸術的経験をぽつぽつと拾い上げ、1冊のスケッチブックに無秩序に詰め込んだもので、これだけだと、日々の風景をつれづれと描き溜めたものというどこか牧歌的な印象を与えるが、実際のところ、その制作風景は全くの逆で、それはそれはひどい突貫工事で描き上げられている。どれくらいひどいかというと、会期初日の朝まで制作していた。北千住のカフェでモーニングを貪りながら必死にペンを走らせていたのを今でも覚えている。こんな体たらくだというのに、なぜか、いやむしろ、こんな様だからこそ、この作品に妙な思い入れがあったりする。殆どは自分が撮った写真や有名な絵をそっくりそのまま描いただけで、オリジナリティのかけらもないのだが、そういったありきたりな題材を自分なりに切り取り、自分というフィルターを通過させ、表現したものというのは、どことなく愛おしさのようなものを感じさせてくれる。恐らくそれは、今はもう取り戻すことのできない日々、感性、まなざしを、率直に、かつ鮮明に残しているからなのかもしれない。